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「葬儀屋さんにも頼んで調べてもらった。猫がお使いから帰って来る直前に連絡があったよ。火葬組織の社員さんに『丁重にお話を伺ったところ』、『すんなり教えてくれた』って」
葬儀屋がどういった方法で『丁重にお話を伺った』のかは定かではないが、『すんなり教えてくれた』という言い回しを使う際は比較的穏やかにことが済んだ場合だ。あえて具体的に表現するなら、『拷問に至る前に吐いてくれた』となる。
「これでようやく分かったんだ。僕らに縄張り荒らしの賞金首をけしかけてた相手は、得意先のはずの火葬組織だったってことが」
しばらく、犬と猫は黙ったままだった。ふいに猫が思い出したように声をあげる。
「待て待て、蜻蛉は? そもそもは蜻蛉の話をしてたはずだぞ、なんで蜻蛉がこの街に来たのに待機なんだって」
「そう。きっと蜻蛉もそうなんだよ」
「……は?」
いよいよ空は暗くなる。犬と猫の住処、事務所の中も暗くなる。
「確かな証拠はない。あくまで僕の想像だよ。蜻蛉も、火葬組織に雇われたんじゃないかな。今までの賞金首とは実力が桁違いだから、僕らに返り討ちにされるためにじゃなくて、本格的に僕らを潰すための駒としてさ。きっと火葬組織はビジネスの手を替えたんだ、火葬じゃなく、賞金稼ぎってやり方に」
猫はもう何も言いすらしない。
「まあ、偶然、こっちには警察から蜻蛉を標的にする依頼が入ってる。返り討ちにしたとしても今回は火葬組織に遺体は回らない」
とうとう、日が沈んだ。
猫は無言で相棒を眺めている。この状況で微笑みを湛えている犬を見ている。
突然犬が立ち上がった。
「確証がないんだ」
すたすたと歩き、部屋の電気を点けた。
視界が開けるように影が割けた。
「分かってるって。だから待機なんだろ、犬」
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