10.最愛の犠牲者

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 もしかしたら彼女は……誰も殺さず済んだのかも知れない。  焚き付け、種火を煽るような真似をするロビンに見出されたことが、本当の意味で彼女の不幸の始まり。 「稀有なる羊、おまえも分かっただろう? 誰もが狂気を抱え、いつでも野に放たれる獣でしかない――清廉潔白な顔をした彼女が赤く血に塗れて笑う姿は、本当に美しかった」  うっとりと告げるロビンの言葉に、最初の殺人はロビンが捕獲される前だったことに思い至る。最初から手のひらの上で踊らされていた事実に、コウキは言葉を失った。  俺がいなければ……この事件は起きなかったのか? 「貴様っ!?」  状況が掴めたのか、口を挟んだ所長がヒッと引き攣った顔で息を飲んだ。  睨み付けるロビンの表情は物騒で、その眼差しは切りつけるように鋭い。だが口元に浮かんだ三日月の笑みが、どこか歪んだ愉悦を滲ませていた。 「やめろっ、ロビン!」 「1回目はコウキに免じて無粋な家畜を許したが……2度目はない」  すっと手を水平に掲げ、肩の高さで横に()ぐ仕草をした。  3人の看守の1人が腰から銃を抜き、所長の背後から頭部を撃ち抜く。軽い銃声と血に驚いた同僚2人を次々と撃ち、彼は陶然とした表情でロビンを見つめた。     
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