01.死神への供物

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 常識や理性を捨て去り、獣以下の存在になった始めて到達できる境地なのだから。ロビンが求めるのは、同じ境地へコウキを引き摺り込むことだった。 「俺は……供物か」  苦虫を噛み潰したようなコウキの渋面に、苦笑いした男は肯定も否定もしかなかった。 「久しぶりだ、稀有なる羊―――我が最愛の『犠牲者』よ」  以前と同じ部屋で、鉄格子を挟んだ対面だった。かつて二重に施された鉄格子は元に戻されている。  これもロビンの希望なのだろうか。手の届かない距離に椅子を置いて座ったコウキを見つめるロビンの眼差しは、どこか愛しさを秘めた複雑な色を隠している。  キリストを慈しむマリアを見守る民衆のように…純粋な感嘆と賛美だけでない色がコウキの意識に焼きついた。 「何故俺を指名した」 「……気に入らなかったか?」  悲しそうな表情を作ったロビンへ、取り付くしまもなくコウキは頷いた。 「俺は忙しい」 「なるほど、時間が足りないか……」  唇だけで紡がれた続きを見たくなくて、コウキは鮮やかな蒼い瞳を伏せた。
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