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04.幸せの証
昨夜は暗かった――それは言葉遊びのように聞こえる。しかし、きちんと意味は持たせられていた。
一瞬で悟れたのは、それだけコウキの能力が高い証拠だろう。
夜空は「昨夜も」暗かったのではなく、「昨夜は」暗かったのだ。
事件が起きる日付に規則性は見つからない。満月の夜を選んでいる訳ではなく、逆を言えば新月を選んでいる節もなかった。
だが昨夜は新月……薄暗く周囲が見づらい夜に行われた犯行の意味を知るのに、ロビンの言葉は一言一句聞き漏らす訳にいかない。
他の犯行日を調べると2回は曇りだが、残りは月が出ていた。三日月であったり満月であったり、そこに一定の明るさは確保されているものの、新月は一度もない。
今回が初めてだった。
「……明るさと指輪」
与えられたヒントを手がかりに、己の左手の指を見つめる。彼が触れたのは薬指で、通常この指に嵌めるのはエンゲージかマリッジのどちらか。
両方とも幸せの象徴とも言えるリングだろう。
一瞬脳裏を過ぎったのは、両親が大切にしていた結婚指輪だった。遺品として海沿いの別宅に保管している指輪は、コウキにとって幸せだった頃の思い出を甦らせるアイテムなのだ。
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