来年もきっと

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「見てみろよ、綺麗だぞ」 頭上から彼の声がした。 「今、それどころじゃないんだけど」 「いいからほら、ずっと同じもん見てても仕方ないだろ」 誰のせいだと思っているんだろう。 せっかく買ったばかりだったのに。 「また買ってやるから。ほら、顔上げろよ」 不満げに口を尖らせていると、彼が苦笑したのがわかった。 仕方なく、足元に広がる色彩から目を離し、顔を上げた。 すると、目の前に広がったのは、雲一つない青空だった。 「何だ、たまにあるじゃん。何が綺麗なの?」 「見てろよ、ほら、あれ」 彼の指さす方向を見ると、白い群れが列をなして飛んでいる。 寒い時期には聞きなれた鳥の声がした。 「白鳥?」 「ああ。真っ白だな。綺麗だ」 「そうだけど。これからもっと見られるじゃん。なんで急に叫んだの」 そもそも、彼が急に声を上げたのが悪いのだ。 そのせいで驚いて、手に持っていたアイスを落としてしまった。 寒い時期に食べるアイスも最高だぞ、と彼が言ったから買ったのに。 「このアイス高いのに。もったいない……」 「それは悪かったけど。嬉しかったんだよ、覚えてないか?去年も見たこと」 「え?」 「去年もこうしてアイスを買って、ベンチで食べてたんだよ。そうしたら白鳥が真上に飛んできてさ」 「そうだっけ?」 「うん。お前、アイスそっちのけで口開けて白鳥見てんの。懐かしいなあ」 「……なんでそんなこと覚えてるわけ」 きっと馬鹿面だったからって笑うんだ。 今は彼のほうがそうなのに。 「早いよな。もう1年経ったんだぞ」 「……うん?」 「絶対別れるって言ってた」 「……うん」 「でも続いただろ。だから大丈夫だよ、俺たち」 「何、急に」 「ずっと前から思ってたよ、俺は」 彼は優しい声音でそう言って、にかっと笑った。 何、急に恥ずかしいこと言ってるんだろうと思ったけど、彼はそういう人だ。 嬉しくて口がにやけるのを隠すために空を見上げたら、白鳥はもういなかった。 「さ、アイス買って炬燵の準備しよう」 「そうだな」 遠くで白鳥が鳴く声がして、来年もまた、ここに来ようと思った。
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