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※ ※ ※ 「敦宜…本当に…?」 範子が呆然と呟く。 月明りが眩い。夜の闇が深かろうと、慣れた目は黙り込む姫をしかと捉えられた。 ――――姫。 いや、彼は歴とした男だ。 「どうして君が此処に…」 けれど、姫として暮らす敦宣は邸にいるはずだ。其処から出ることはない。 そのはずの彼が何故宮中に…? 「はあ~…ややこしい事になったわあ…。ただのお坊っちゃんなら怖がって追い掛けてこなかったでしょうに。無駄に勇敢なのねえ」 「無駄にって余計だ!」 「え?」 範子がほぼ反射で叫んだ次の瞬間、三つの声が見事に揃った。 …そう、三つだ。 一番早く我に返ったのは範子だ。 「今…誰が喋った…?」 敦宣の声ではなかった。ならば、今の声は…? 「此処よ。こーこ」 「は…、え…?」 「どう? あんたアタシが視える?」 敦宣の傍らにいた…否、飛んでいたのは一匹の蝶だった。手の平ほどの大きな羽を羽衣の如くひらひらとさせている。この暗闇では流石に見えないはずなのに、きらきら光る鱗粉が見えるようだ。 見事な蝶だ。 しかし範子は観賞している余裕などなかった。 だって喋ったから! 一縷の望みをかけて、何処かに他のひとがいるのではないかと辺りを探すが、人っ子ひとりもいない。この場には、範子と敦宣と、この蝶しか。 「うそでしょ…」 「あ、やっばいこの子完璧視えてんわ」 ひらひらと舞いながら、蝶が話している。声は低い男のものなのに、何故か口調が女だ。蝶が話すのに加えてもう意味がわからない。 「範子さま、胡蝶が視えているのですか…?」 「胡蝶…? この蝶の名前?」 範子が蝶を指差す。問い掛けた敦宣が信じられないといった顔をした。 「胡蝶」 「指差すんじゃないわよ」と範子に文句を垂れていた蝶が、真剣な表情で敦宣に呼ばれ「はあ…」と大きく息をついた。 「…そうね。でも敦宣、今は後回しよ」 「―――ええ、わかっています」 ふたり(?)で会話が進んでいき、置いてきぼりの範子は何が何やらだ。 「え、え、え?」 混乱しきりの範子だったが、
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