2.

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「敦宜」 「範子さま…」 真剣な範子の声音に、敦宣が緊張も露わに口許を引き結ぶ。しかし逃げようとはしない。 彼は観念して範子の次の言葉を待っていた。 そんな彼に範子が飛び付かんばかりに歩み寄った。 「ね、私に笛を教えて!」 「えっ?」 「敦宜、笛すっごく上手いんだ!? やっぱりそうだと思ってたんだよ!」 「ええ…?」 「まー能天気な公達だこと」 目を白黒させる敦宣の頭上で、胡蝶が呆れ返って言った。 「私も笛は吹くけど、敦宣の方が何倍もうまいよ! 感動しちゃった」 「いえ…そんな…わたくしなんて」 「ほんと、ほんと」 「―――ねえ」 「実際に聞いたことないけど、竜の啼き声みたいだった」 「―――ちょっと、アンタ」 「アンタじゃなくて範子だ!」 ばっと範子が頭上を見上げた。 夜空を優雅に揺蕩っていた蝶がすいと範子の鼻先へと飛んでくる。 「なら範子」 「もう、なに?」 「アンタあんまり動かない方が良いわよ」 「だからアンタじゃ………あ、れ…?」 いきなりがくん、と体勢が崩れた。たまらずしゃがみこむ。 「範子さまっ!」 敦宣が慌てて範子の前に膝をつき、肩を支えてくれる。 「ちからが…はいらない…」 「ほれ見なさい。さっき敦宣に陽の気を渡したからよ」 「よう…? それにさっき言ってた『逆転の者』って何なの?」 胡蝶が敦宣の肩にとまった。 「敦宣」 促すように胡蝶が呼び掛ける。 しばらく胡蝶を眺めていた敦宣が、意を決した様子で範子に向き直った。 「すべて説明します。兎に角、わたくしの邸に参りましょう」
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