10.

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もうひとつある。 この度、範子と敦宣の婚約が右大臣に認められる運びとなった。 噂が本当になったなあとなんとも軽く思っていた範子であったが、この手強い婚約者を前にしては前途多難を感じるのであった。だって強いんだもの。 まあしかし、本当に参ったと思っているわけではない。これで宮中で色んなお誘いをかわすことができるし、余計な噂や疑惑も囁かれなくなる。婚約の相手が同じ性別を逆転させた敦宣なら文句はない。 …全て、範子に限った話であるが。 「範子さま、何かお考え事ですか?」 「うーん」と腕を組んで範子は疑問を口にした。 「敦宣はさ、本当にいいの? 私と婚約して」 「え」と虚を衝かれたようにしていた敦宣だったが、直ぐに居住いを正した。 「そうですね…、わたくしは以前範子さまに『あなたを友人と思ったことはない』と申してしまいました。範子さまが疑問に思われるのも仕方がないことですね」 「ううん! それはもういいんだ。敦宣が本気で言ったわけじゃないことはわかっているから…!」 敦宣があまりにも思い詰めた表情で言うので慌てて弁解すれば、ちらっと範子を見た姫君から予想外の応えが返ってきた。 「あれは…本当のことですよ?」 「え」 「範子さまを友人と思ったことは本当にありません」 範子の時が一瞬止まった。後、心の臓がばくばくいうのを抑えながら怖々と問う。 「な、何、私他にも君になんかした?」 「いいえ、違いますよ」 それまでの勢いは何処へやら、敦宣がもごもごと口ごもった。 「そうではなく…わたくしは初めから範子さまのことを友人ではなく…その…」 「え…」 ここで、決して鈍くはない範子も合点がいった。お互い性別を逆転させる者として良き協力者を得た今回の婚約話だと思っていたが、これは…。 瞳を伏せた敦宣の目尻がほんのり赤く染まっているのを見て、つられて範子の頬にも血がのぼる心地となった。 「はあ~~あ~~はいはいごちそうさま~」 不意に割って入った呆れ返った風情の胡蝶に、はっと二人が顔を明後日の方へ向けて赤い顔を隠す。 「全くこれからどんどん暑くなっていくってのに、これ以上暑くしないでちょうだいよ~」 「そ、それより、どうだった?」 慌てて範子が話題を逸らす。 はあ、と大きく嘆息し、胡蝶はうってかわって真剣な声音になった。 「アンタの言った通り、内裏にまた厭な気配があるみたいね」 「やっぱり…」 様々な思惑が交錯する広大な大内裏では、怪談の類いの噂は尽きることはない。その多くは噂の範疇を出ないが、その中で範子が気になった噂があった。 胡蝶に内裏を見てきて貰ったが、式神も同じく感じるものがあったらしい。 「ちゃんと調べるならやっぱ夜だよね」 「ならば、範子さま」 心得た敦宣が言うのに頷き、範子はその手を取った。 「うん、行こうか!」 終
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