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そこは寂れた公園だった。
遊具といえば、滑り台とジャングルジム、ブランコ、そして砂場といった最低限の設備しかない。
最近の風潮から規制が厳しくなったために古い物が撤去されたというわけでもなく、そこができた当初からそんな感じだった。
場所的にも、なぜこんな所に作ったのだろうと首をかしげたくなるような目立たない公園だ。
そんな、誰かに来てもらいたいという意図が感じられないような寂れた公園でも、小学生になるかならないかくらいの歳の少女が二人、仲良さげに砂場で山を作り真剣な顔をしてトンネルを掘っていたりしている。
「ユイちゃーん、もう帰る時間よー」
夕暮れ時。そんな二人に向けられた声に、砂遊びをしていた少女の一人が振り返ると公園の入り口に、買い物カゴを持った20代の女性が立っていた。母親が買い物帰りのついでにその少女を迎えに来たのだろう。
「えー? まだ帰りたくなーい」
口を尖らせてそんな口答えをする少女に、もう一人の少女が笑顔で言う。
「私ももう帰らなきゃいけないから、マイちゃんも帰った方がいいよ。せっかくお母さんがお迎えに来たんだしね」
「うーん……。わかった。じゃ、またあそぼーね!」
マイという少女はわりとあっさり納得して母親の元へ駆けて行きながら、まだ砂場に残っている少女に手を振る。
「うん、じゃあね。」
残された少女は笑顔で手を振り返してみせつつ、ひっそりと口の中で呟いた。
「……帰る場所がある少女は、お帰りなさい」
その声は誰にも届いてはいない独り言だ。ただ、その声は、見た目に幼いその姿からは想像がつかないほど大人びていた。
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