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別れを告げて去っていく親子連れが見えなくなると、それまで笑みを浮かべていた少女の顔から表情が消えた。
そして、再び砂山のトンネル掘りに取り掛かる。
それまで一緒に遊んでいた少女に言った『私も帰らなきゃいけない』という、その言葉はどうやら偽りだったようだ。
それから数分も経たない頃。
どこからともなく声が聞こえた。
『――美味そな子供が遊んでいるよ』
その声は確かにその少女には届いてはいるはずだった。
しかしその幼い彼女はその声の主を探そうというそぶりも見せずに、ただ独り黙々と砂遊びを続ける。
と、再び姿なき声が語り始める。
『それも──ひとりっきりで、遊んでいるよぉ』
それでも少女は、視線すら動かさずトンネル掘りに専念している。
声はさらに続けた。
『それじゃ、この手で捕まえようか……』
その言葉と同時に、少女の五メートルほど手前の地面に穴のような黒い影が現れ、そこから──人間のものとは思えない大きく長い手が二本、にょきりと生えてくる。
それでも、少女は『それ』を見ようとはしない。
『そして、手足をちぎってやろうか?』
そんな不穏な言葉にも、少女は反応しない。
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