第十三話「嘘と誤魔化し」

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 いつの間にか眠っていたのか。  ふと目を覚ました一砥は、ベッド横に立つ人物に気づき、まだ自分が夢を見ているのかと思った。  テレビや映画のスクリーンで見飽きた顔が、無言で彼を見下ろしていた。 「母さん……」  無意識に口が動いた。  真邉藤緒は冷えた視線を息子に向け、「久しぶりね」と言った。  一体いつから来ていたのか分からなかったが、廊下はシンと静まり返り、室内はベッド脇の小さなデスクライトが灯るだけで薄暗かった。  藤緒は派手なミンクのコートを着て、ドラマや映画で見せるのと同じ、作ったような表情でそこにいた。  ドラマか映画の撮影と錯覚するような情景に、一砥はここにカメラがないことがむしろ不思議だった。 「なぜここに?」  一砥はゆっくり身を起こし、ベッド脇のスツールに腰を下ろした、数年ぶりに会う母親を見つめた。 「……事故の報告を受けたのよ。ニュース画像で見たら、車が酷い有様だったから、軽症と聞いても信じられなくて。自分の目で確かめたかったの」  藤緒は淡々と答えた。 「……俺の身を心配して、あんたがわざわざ病院に?」  皮肉でなく本気で信じられない、という顔で、一砥は言った。     
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