409人が本棚に入れています
本棚に追加
見慣れた自室の天井を見上げ、花衣は一砥とのこれからの生活に、不安と疑問を抱かずにはいられなかった。
ただ彼が好きだという感情のみで、今の自分が現実を見ずに流されているだけな気がして、いつかこの決断を悔やむ日が来そうで、怖かった。
花衣の結婚へのネガティブな感情は、無論、両親のことが関係している。
母はずっと父を裏切り、父は不貞を犯した母を恨みながら死んでいった。母の犯した過ちのせいで、自分までも父からの愛情を失った。
すぐそばに香奈と幸太という、お互いに助け合い信頼しあっている理想の夫婦がいるにも関わらず、父母の落とした影はあまりに濃く、こういった些細な出来事で、花衣の不安は否応にも増していった。
今の花衣は、他人が築いた砂の城の上に立っている状態だった。
結婚への不信感と、馴染みのない世界に飛び込む勇気をなかなか持てない花衣にとっては、一砥から受け取る愛情と優しさだけが、この結婚への唯一の道標なのだ。
彼女にとって絶対的存在たるべき一砥自身が不安定な今、美しく堅牢に見えた城に罅が入り、その城壁はもろくも崩れ去ろうとしている。
虚構の城が崩れた後に残るのは、覆い隠されていた醜悪な現実で、それを目の当たりにした時、全ての選択は花衣自身に委ねられるのだ。
その時は確実に近づいていた。
最初のコメントを投稿しよう!