第十三話「嘘と誤魔化し」

1/29
403人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ

第十三話「嘘と誤魔化し」

    1  三月十日。金曜日。  空は雲に覆われ冷たい北風が吹きつける、三月にしてはかなり寒いこの日に、花衣の学校の卒業式が行われた。  近くにある桜の木もまだ蕾は固く、春の訪れはまだ先のように感じる天候ではあったが、卒業生達の胸は期待と喜びに大きく膨らんでいた。  ファッション専門学校の学生らしく、所謂“卒業式ファッション”に身を包んだ者は少なく、多くが自作の、あるいは個性に満ちたブランドファッションを纏い、晴れの日にも感性を競い合っている。  花衣も自作のドレスとジャケットで華やかに装い、友人達と一緒に式に参列した。  卒業証書授与に校長や来賓の挨拶、在校生送辞に卒業生答辞と、セオリー通りの式を終えると、教室に戻って最後のホームルーム、講師や友人達との写真撮影会と続き、さらにホテル会場での謝恩会という流れだった。  式の間も賑やかな写真撮影会の時も、全く涙を見せなかった花衣だが、謝恩会で担任に別れと感謝の言葉を口にした途端、いきなり涙が溢れて止まらなくなった。     
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!