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すぐ身近に、恋愛にエネルギーの大半を注いで生きているような友人(奏助)がいて、彼が恋人との問題で悩んだり奔走している姿を見ては、ああはなるまいと自らに言い聞かせて来た。
それなのに、気がつけば自分もすっかり恋の罠に嵌まり、自嘲の笑いを禁じ得ないほどに、一人の女性に身も心も翻弄されている。
大事な友人との長い友情を壊す危険を冒してまでも、彼女に愛を告白した。
一生独身を通す予定だったのに、彼女を独占したくて、その笑顔を毎日見ていたくて、周囲が驚く速さで婚約した。
そして今。
誤魔化しや欺瞞が大嫌いなはずなのに、彼女の悲しむ顔を見たくなくて、嘘つきの卑怯者にまで身を落とした。
仕事に忙殺される日々でも、僅かな時間を作って彼女に会いに行き、「里水花衣のことで大事な話がある」と高蝶華枝に呼び出しを受ければ、疲れた体に鞭打って軽井沢まで車で行こうとまでする。
我ながら呆れるほどに情けない体たらくだ。
その愚かさを笑うかのように、今日のこの貰い事故だ。
だがこれは、天からの啓示かもしれないな、と一砥は思う。
いい加減しっかりしろと、本来の自分を取り戻せ、という……。
ではその大いなる叡智の主は、自分にどうしろというのか。どう行動するのが正解なのか、そこまでは教えてくれない。
だから彼は溜息をつく。
それしか今の自分は出来ないから。
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