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予想通りの息子の反応に、藤緒はクスと笑った。今日初めて見せた、女優の素顔の笑みだった。
五十の誕生日はとうに過ぎたはずだが、その笑顔は二十年前と変わらず美しかった。
母親の笑顔を間近で見た記憶はなく、一砥は、やはり今自分は夢を見ているのかと疑った。
「でも本当に、大したことなかったようね。……あなたは私に似て、悪運が強かったのね。良かったわ」
意味深長な台詞を呟き、藤緒は静かに立ち上がった。
そのまま帰るかと思いきや、立ち上がったところで思い出したようにこちらを見た。
「そうそう。あなた、婚約したんですって? しかも随分若い子と」
「…………」
「聞くところによると、専門学校生でモデルだそうだけど」
「……専門学校は、今日卒業した。モデルは一度きりだ」
「ふぅん……。どんな子なの」
「どんなって……すごく普通の子だよ。真面目で堅実で、素直で優しい……」
その返事に、藤緒はまた小さく笑った。
「つまり、母親と正反対のタイプってわけね」
「…………」
一砥は無言だった。別に母親と反対のタイプを選んだつもりはなかったが、指摘されて初めてその可能性を考えた。
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