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短いやり取りを交わし、お互いにおやすみの挨拶を終えた後で、花衣はスマホ片手にフゥと小さく嘆息した。
帰宅時、送ってくれた奏助にも亜利紗にも、いつも通りの自分でいた花衣だったが、本当のところは一砥の事故の件を他人から教えられたことに、かなりのショックを受けていた。
(どうせ後でバレることなのに……なんですぐに教えてくれなかったんだろう……)
だが裏事情を知らない花衣には、一砥がなぜ自分に秘密にしていたのか、その理由がどうしても分からない。
心配掛けたくなかった、と彼は言うが、奏助にはすぐ連絡しているし、軽傷だったのだからその言い訳はおかしいと思った。
一砥と自分が格差婚である自覚もあり、だからこそ尚更、せめて二人の間には嘘も隠し事もなく、確固たる信頼関係を築くべきだと思っている。
何より、それを誰より望んで求めたのは一砥の方だった。
そのはずなのに、花衣は今、彼と自分の間に見えない壁を感じていた。
どこがどうと問われても答えに困るが、最近の一砥の言葉や態度に、どことなく余所余所しいものを感じるのだ。
もう婚約し一緒に住むことが決まり、これから夫婦になって本当の家族になるべき相手が、自分に対し見えない壁を作っている気がして、それがたまらなく不安だった。
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