第十三話「嘘と誤魔化し」

27/29
前へ
/29ページ
次へ
 短いやり取りを交わし、お互いにおやすみの挨拶を終えた後で、花衣はスマホ片手にフゥと小さく嘆息した。  帰宅時、送ってくれた奏助にも亜利紗にも、いつも通りの自分でいた花衣だったが、本当のところは一砥の事故の件を他人から教えられたことに、かなりのショックを受けていた。 (どうせ後でバレることなのに……なんですぐに教えてくれなかったんだろう……)  だが裏事情を知らない花衣には、一砥がなぜ自分に秘密にしていたのか、その理由がどうしても分からない。  心配掛けたくなかった、と彼は言うが、奏助にはすぐ連絡しているし、軽傷だったのだからその言い訳はおかしいと思った。  一砥と自分が格差婚である自覚もあり、だからこそ尚更、せめて二人の間には嘘も隠し事もなく、確固たる信頼関係を築くべきだと思っている。  何より、それを誰より望んで求めたのは一砥の方だった。  そのはずなのに、花衣は今、彼と自分の間に見えない壁を感じていた。  どこがどうと問われても答えに困るが、最近の一砥の言葉や態度に、どことなく余所余所しいものを感じるのだ。  もう婚約し一緒に住むことが決まり、これから夫婦になって本当の家族になるべき相手が、自分に対し見えない壁を作っている気がして、それがたまらなく不安だった。     
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

409人が本棚に入れています
本棚に追加