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アルヴィンは部屋を出ると階段を下り、リヴィングにもなっている食堂へと向かった。もう子供たちはご飯も済ませ、お風呂に入っている時間帯。だから部屋に子供たちは2、3人くらいしかいなかった。
その端の方に、風呂にも入らず、元気なさそうに座る一人の子供が。その子の元へ、アルヴィンは真っ先に近寄った。
「タドルくん」
タドルがゆっくりと顔を上げる。また怒られると思われているのか、眉が完全に下がってしまっている。
「さっきは大きな声を出してすみませんでした。君は何も悪くないですよ」
「うん・・・・・・」
歯切れの悪い返事に、また下を向いてしまう。
「タドルくん」隣の椅子を引いてそっと座る。「あの子のこと、怖くなりましたか」
「ち、違うもん!」
そう強い口調でつっぱねてはいるが、目をこちらに向けようとはしない。
「そうですか・・・・・・私は怖いですよ」
「え・・・・・・」
タドルがようやく目をこちらに向けてくれる。
「あの子は、今自分に何が起こってるか分からなくて、すごく混乱しています。私も、あの子の名前も、どこから来たのかも分からなくて不安なことばかりです。ですが、タドルくんがあの子の事をいつも心配してくれて、それにすごく勇気づけられました」
「そう、なの?」
「ええ、そうですよ。タドルくん、だからどうか、この弱虫な私を助けてくれませんか」
タドルは何も言えずに、だがゆっくりとその目に光が宿っていく。
「あの子の友達にーー家族になってあげてください。そしてあの子に、ここは安全だと、君がいていい場所だと、教えてあげてくれませんか」
「うん、分かった」
その時だけ、タドルは大人の目をしていた。
あの子はもう大丈夫だ、アルヴィンがそう思えた瞬間だった。
***
リズムよく、タンタンタンと階段を上る。軋む音が昔よりも大きくなっている気がするが、廊下の窓から差し込む朝日の清々しさと朝の香りは何一つ変わっていない。そして、こうして寝坊助を起こしに行くことも。
客室用の部屋の前で立ち止まる。一度子供たちが起こしにかかったのだろうか、その扉は全開になっていた。部屋に置かれたいくつかのベッドのうち一つだけが、未だこんもりと盛り上がっている。それを見つけ、レイズは一つ息を着くと、その傍らに近づいた。
「お前、いつまで寝てるつもりだ」
と、声を掛けても帰ってくるのは気持ちよさそうな寝息だけ。こうなればいつもの手段だ。
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