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「落ち着いて! 大丈夫」
壁沿いに待機していた複数の教師が生徒をなだめ始める。レイズは腕輪を手にしたままだったが、タドルは一度手にしたそれをちゃっかり箱の中に戻した。
「おいレイズ、これ本当にはめなきゃダメなのか?」
「え……いや、どうだろ」
すがる様に見つめてくる友人に思わずたじろぐ。レイズ自身も、こんな正体の分からない物体をはめるのは気が引ける。
「フィードバック型ならいいんじゃないかな」
「は?」
「術者の魔力に直接影響して、魔法の発動を阻止するようなタイプじゃなきゃ大丈夫だと、思う」
顎が外れそうなほど口を開いたタドルに、これ以上何を言っても無駄だ。
とりあえずレイズは腕輪を両手で持ち、ゆっくり腕輪を回して指を滑らせる。繋ぎ目まで一周するが、はたして初見の装置。真っ白い能面ごとき腕輪に込められた仕組みなど正確に判別できるはずがなかった。
「分かったか?」
「構造が単純だから、フィードバック型かな」
テキトーだが、これが適当な答えだろう。装着するしかないのだから、ここでタドルの不安を煽っても仕方ない。
「型の種類を知っているとは、さすがだな」
二人だけの会話に、急に鋭い女性の声が割り込んでくる。思わず驚いて壁側を見やると、引き締まったしなやかな体躯に腰まである長い黒髪をもった女性教師が、うすら笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「その通りだ、レイズ・リディーム。早く付けてしまいなさい、その隣もな」
強く、だが冷たさは感じられないその口調が印象的な黒髪の女性教師は、それだけを言ってその場を離れていった。藪から棒に入ってきて、しかもレイズの名前を知っていた怖そうな女教師に、本人ではなく”隣もな“と言われた人物が動揺し出す。
「落ち着けよ。あの先生が担任とかになった訳じゃないだろ」
「は? 少しは用心しろよ。お前、ぜってー目え付けられたぞ」
そうは思いたくないが不思議とタドルの勘は当たるものだ。レイズは苦笑いを返して、まるで気にも留めていないとばかりに手元に視線を戻す。すでに至る所で光が走り四割近くの生徒は装着が完了しているようだ。
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