第1章 聖セイバー教魔法学園

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「タドル、だから――」  レイズは出かけた言葉を飲み込んだ。無意識のうちに跡を付いていた目の前の生徒の襟元に光る金色のラインが目に入り、まずいと思い引き返そうとするが、そこでさらに最悪の事態に気付いてしまった。周りの制服全てに金色に輝く、貴族を意味するラインが入っていたのだ。  話に夢中になり、いつの間にか貴族クラスの波にまみれてしまったのだろう。方向も指示された教室とは逆へ向かっていた。 「おい、引き返すぞ」  タドルの腕を掴むと、ワンテンポ遅れて状況が飲み込めた友人を引っ張り流れに逆らおうとする。だがすぐ後ろには屈強な男子生徒が立ちはだかっていた。構わず分け入ろうとするが、なぜかどけようとしてもらえない。 「すみません、ちょっと間違えたので」  恥ずかしさで顔を上げられず彼らの胸に向かって話しかける形になってしまう。しかしそれでも通してもらえず、不審に思ったレイズはそこでようやく顔を上げ、異様な状況に感づいた。微動だにせず、レイズとタドルを見下す貴族組の男子生徒。そして辺りに視線を巡らせると、歩みを止めた貴族生徒に囲まれてしまっている。 「あの……」  通してほしいと言えるような雰囲気ではない。明らかに二人を、いやレイズを狙ってきたのだ。集団リンチという最悪の言葉が頭の中をよぎる。それにタドルまで巻き込むわけにいかない。とっさにレイズはタドルの腕を引き寄せていた。 「何を怯えてるんだ」  取り囲む生徒の向こう側から声が飛んでくる。聞き覚えがあると思うより先にその人物が思い浮かんだ。生徒が退けていくとそこに入学式で新入生を代表して壇上で胸を張っていたあの紫の髪色の貴族様がうすら笑いを浮かべていた。
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