第1章 聖セイバー教魔法学園

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「はじめましてレイズ・リディーム君。僕はカイン・バティスト」  歩みを進めながら滑らかに言葉を紡ぐと流れるように手を差しだしてきた。相手にもそれを促すような素振りに、レイズは逡巡しつつも手を差し出した。だがあと少しで手が触れようとした刹那、カインが瞬時に手首ごと掴み、むりやり引き寄せる。つんのめるように前へ倒れたレイズは体勢を立て直すも、そのすぐ目の前には憎しみをさらけ出したカインの顔があった。 「この度は首席でのご入学おめでとう」  トーンの下がった声にレイズは背筋が凍る様だった。ギリギリと腕を掴む手に力が入れられレイズは身をよじるが、全く効かない。 「無事卒業できることを祈っているよ」  付き離すように手が離され、レイズはすぐさま数歩後づさるが、ニヒルな笑みを崩すことのないその貴族に、レイズの体が強張る。 「なんだよその態度」  隣から聞こえた不服な言葉にレイズの緊張がさらに高まった。あろうことか状況を正確に把握できていないタドルが喧嘩を売るような事を口走っていたのだ。「やめろ」と小声で言うが時すでに遅し、カインの怒りのボルテージが静かに上がっていくのが声音に現れていく。 「そっちの君はどうやら正真正銘の世間知らずだな。僕の一族、『バティスト』と聞いて何も思わないのか。まさか五大貴族を知らないとは言うまいな」 「す、すみません。こいつ何も知らなくて」  火に油を注ぐようなことを言いかねない。タドルが口を開こうとするのをレイズは阻止するが、怒りは収まらないようだった。 「僕の一族は『セイバー神の右腕』として代々、大神官を務めてきたんだ。君みたいな貧乏人には一生かかってもお目通り叶わぬ救世神セイバー様に、僕は直接何度も謁見しているんだよ」  さすがのタドルでも分かったのか、言い返せずにいる。セイバー神は民『セレス』の前に姿を現すときは布で顔を隠しており、平民はもちろん、貴族でもその素顔を拝むことはできないのだ。
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