第1章 聖セイバー教魔法学園

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「僕はこの学園で最も神に近い一人だ。その僕を穢して、この学園で生きていけると思うな」  そう言い残すとカインは数歩後ろに下がり、反転して輪の外へ出て、取り巻き役のような生徒を引き連れて廊下を進んでいった。  これで解放されたと胸を撫で下ろしかけた時、身をよせていたタドルが咄嗟に動く。レイズが振り向くと鈍い音を立て、タドルが屈強な男子生徒から放たれた拳を受け止めていた。  あまりの急展開に息をのんだレイズだったが、その間にもタドルは次のモーションへ移っていた。左手で握った相手の拳を迷わず引き寄せるとよろめく相手の腹に左足を叩き込む。体格での圧倒的な優位さに余裕をかましていた所の反撃。その男子生徒は呻き声を上げ、そのまま地に伏せこんだ。 「来いよ、そのために囲んだんだろ」  周りを取り囲む他の貴族に挑発するが、彼らは目の前で見せられた予想以上の素早い反応に怖気づいている。普通ならこれで引き下がるのだろうが、彼らはあのバティストに指示を受けて動いているのだ。そう簡単に諦めるわけにはいかないのだろう。  タドルの死角から一人の生徒が踊り出る。無言で近付くその者に常人なら気付くまい。しかしタドルはその殺気を感じとっていた。振り向きざまに、今にも殴りかかろうと腕を引く姿を捉えると、片腕でレイズをかばい自らの拳を握りしめ、そして―― 「何をしている!」  双方の動きがぴたりと止まった。低く強かな女性の声に周囲はざわめき、皆同じ方向を確認して顔をしかめると、その声の主がいると思われる方に逆行してバラバラと走りだしていく。  金色のラインを反射させながら、廊下の向こうへ消えていく集団の背をレイズは呆然と眺めたが、すぐに背後へ振り向いた。  生徒が消えた廊下に佇んでいたのは長い黒髪と同じ黒い瞳をもったあの女教師だった。腕を組み鋭い眼光を向けるその姿にレイズは先ほど以上の恐怖を感じてしまう。 「入学初日から、騒ぎを起こすとはな」  ヒールの音が廊下に反響する。滑らかな足取りで二人に近付くと静かに見下ろしそう放つ。
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