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山並みの向こうからそそり立つ、もくもくとした巨大な雲の柱に夕陽の色が差し込んでいる。暑い季節の風物詩とも言えるその光景に、今年十歳になったばかりのタドルは空を見上げた。
「おい、見ろよ。あの雲やべーでけーぞ!」
「おっきー!」
「おいしそー!」
年下の子達もそれを見てキャッキャッとはしゃぎ始める。
「おいタドル、早くしろ!」
と、楽しい雰囲気を誰かの声が壊しにかかる。そんなことする奴は見なくても分かるが、タドルは嫌々振り返る。そこには、案の定仁王立ちしたリーヴァスが。
「早くハウスに帰るぞ。君らのせいで、またレナードさんに叱られるだろ」
「そんな怒らなくたっていいだろ」
口を尖らせてぶつくさ文句を言うが、それでも胸の靄は晴れない。折角皆で遊んだ帰りだというのに、これでは台無しだ。
「タドル、言っとくが、君が下の子たちの悪い見本になっているんだからな!」
「はあ? なんだよそれ!」
「もういい、僕は先に帰る。君が責任をもって連れ帰ることだな」
「おい待てよ!」
だがリーヴァスは深いため息とともに踵を返すと、未だはしゃいでいる姉弟たちを残して、ハウスへ続く道を速足で進みだす。
「マジかよ」
いよいよ本気で置いていかれてしまった。とはいえ、リーヴァスに見捨てられるのはいつものことだった。まだシェイミ―やしっかり者の女子が一緒に居ればなんとかなったのだが。残念なことに、シェイミ―は年が近い子とお菓子を作るからと言って外遊びにはついて来なかった。
「ほら、帰るぞ。シェイミ―達がお菓子作ってくれてるしさ」
「お菓子?」
「食べたい! 食べたい!」
よし、なんとか引っかかった。だが、帰ってそうそう晩御飯の前には食べちゃだめとか言われてひと悶着起こりそうだが、その時はそのなんとかすればいい。
「あれ? リーヴァス兄ちゃんは?」
一人の男の子が今更気づいてタドルの袖をつかんでくる。
「あいつなら先に帰ったよ」
「また喧嘩したの?」
「“また”じゃねえよ。あいつと仲良くしてるのなんて一瞬もねえよ」
そう言えば、面白そうにさらに弄ってくるが、なんとか交わして姉弟たちの背中を押しつつ手招きしつつ、ハウスへの道のりを進んでいった。
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