第12章 あの雨の日の約束を

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「今日は遅いし、泊まっていってもいいが」 「お言葉に甘えたいところだが、今日は帰るよ」 「じゃあ、せめて晩ご飯を食べて行ってくれ」 次々に器具を片付けていく手が止まる。 「それじゃあ、そこはお言葉に甘えようかな」 その緊張が少し緩んだマイルズ笑顔に、つられてアルヴィンの体の強ばりもほぐれたようだった。 その翌日、翌々日も男の子は目覚めず、マイルズにも毎日診てもらい気が抜けない日が続いた。さすがに子供たちも大怪我をした名も知らぬ子が二階にいることを気にして、たまに様子を聞いてくる子もいたが、会いたいとまでは言い出す子はいなかった――ただ一人を除いては。 「アルヴィンさん、あの子、大丈夫?」 学校から帰ってくるなり、タドルが書斎に入ってきて、そう尋ねてくる。男の子を連れてきてから三日。その間タドルはそのフレーズを毎日朝夕晩と繰り返してくる。 「おかえりなさい、タドルくん。怪我は少しずつ良くなってますよ」 「ホント? もうすぐ会える?」 「会えるのは、もう少し先ですかねえ」 タドルが少し残念そうに口を尖らせる。だがすぐさま何かを思い出したように表情をコロリと変えると、襟から服の中に手を突っ込んでそこに見える青い糸を手繰って何かを出した。 「アルヴィンさん、あの子に聞いて欲しいんだけどさ」 「何をですか?」 「ミバーサンの中で好きなお菓子だよ!」 そう高らかに声を上げて手にした小さいポーチを上下に振った。少なくとも、多くともない小銭がジャラジャラと楽しげに音を鳴らした。 「買ってきてあげようと思ってさ、今レナードさんの手伝いとか頑張ってるんだ!」 ハウスでは大人の手伝いをすればお小遣いを少し多めに貰える仕組みにしている。それでタドルは稼いでいるのだ。その健気さに、アルヴィンはぐっとこらえならが笑顔をつくった。 「ありがとう、タドルくん。あの子が元気になったら、皆でお菓子パーティーしましょう」 「マジ? やったーー!」 タドルは両腕を振り上げて喜びを爆発させた。 「おれ、もっと働いてくるよ!」 「ええ、気をつけてくださいね」 タドルがドアに手を付けながら廊下に躍り出てドタドタと走ってゆく。アルヴィンは少しの間だけ、穏やかな顔で賑やかだったその空虚を眺めていた。もっとあの元気に触れていたかった。一人になれば不安なことばかりを考えてしまうからだ。
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