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タドルはハウスのムードメーカーでいつも元気で賑やかだが、小さい子達の面倒みもいい。だからこそ、あの子のことも気にかけてくれているのだろう。あれだけ凄惨な姿を見てしまったというのに。だが確かに、まだ十才の子供に、アルヴィンは勇気づけられているのだ。
「仕事にもどりますかね」
デスクに戻ろうとした時、ドアから軽いノック音が聞こえた。
「アルヴィンさん、すみません」
「ミレイさんですか、お疲れ様です」
ミレイが廊下の向こうを覗きながら部屋へ入ってくる。
「タドルくん、ずいぶん元気に走っていきましたけど。何かあったんですか」
「あの子に、お菓子をプレゼントしてあげたいそうですよ。張り切ってレナードの手伝いに行きました」
「そう、タドルくんらしいですね」
ミレイもそれを聞いて微笑む。彼女もまた、同じことを思っているのだろう考えているのだろう。
「マイルズさんが、来る頃ですか」
彼女が抱えるバスケットに入った白い布を見てそう悟った。
「ええ、さっき電話があって、もうそろそろ手が空きそうだから来てくれるそうです。包帯も、ちょうど乾いてくれてよかった。マイルズ先生にはホントいつも助けてもらっているので、なにかお礼しない――」
「まってください」
アルヴィンは胸騒ぎとともに、咄嗟に彼女の言葉を遮るように片手を上げた。
「誰か、叫んだ声が・・・・・・」
「え、私は聞こえませんでしたけど」
確かに、一瞬だけ聞こえた。
「外で遊んでる子達ですかね」
「いえ・・・・・・」
そんな甲高い声ではない。もっと低くて悲しい声ーー。
その時、何かが落下する鈍い音と振動が部屋中に響いた。身を縮こませるミレイに反するように、アルヴィンは言うようりも早く廊下に飛び出ていた。さっきの声がした時点で、少しは予見できていたというのに。
アルヴィンは迷わず二つ隣の扉を押しあけた。
真っ先に目に飛び込んだのは、空になったベッドとその下に落ちたシーツ、そしてその上に蹲る小さな体。
「アルヴィンさん! 男の子は!」
続いて部屋の前まで来たミレイが、その光景に息を飲み、すぐさま駆け寄ろうとする。だが、アルヴィンはその腕を掴んで制した。ミレイがなぜ、とばかりに見上げてくるが、アルヴィンは何も答えずに、彼女を後ろに下げて自分だけで男の子へと歩みを進める。
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