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「君、大丈夫ですか」
優しく包むような声を掛けてあげたかった。だが反面、喉が張り付き角張った声になってしまう。
蹲る男の子はシーツをきつく握りしめ、息遣いも荒い。それが、痛みに耐えてる仕草とは思えなかった。
「安心してください。ここはーー」
そこで男の子と唐突に目が合った。青髪の隙間から見える、完全に見開いた瞳。恐怖、憤怒、絶望ーー普通の子供が見せていい表情ではなかった。
「……だれ」
それが、初めて聞いた彼の声だった。子供とは思えない、深く、闇を孕んだ胸に刺さる響き。
「私はアルヴィン、といいます。あなたが川原で倒れていましたのでここに運びました。怪我は、痛みませんか」
「・・・・・・に、さん、は」
辛うじて聞き取れた言葉とそれが意味すること。アルヴィンは何も言えないまま息を飲んだ。少なくとももう一人、彼がこの状態に陥ったときに誰かがいたということだ。
だがその反応が、まずかった。
男の子はシーツを体から引き剥がし、ベッドを支えに立ち上がった。そして迷わずベッドの向こう側にある窓に目を止め、駆け出した。
「ダメです!」
言葉よりも早く体が動いた。だが男の子の方が早い。窓の鍵に手を掛け、そして開けようと窓を押した。だが、ここは引き戸だ。
「止めなさい!」
そこをなんとか後ろから体を掴みかかった。だが男の子は窓から手を離さない。
「ダメよ。ここは二階なんだから!」
ミレイがその手を引きはがそうとするが、想像上の握力があるのかビクともしない。
「どけ!」
宙に浮いた足でミレイを蹴る。だが、彼女もだてにここで働いてはいない。怯むことなく男の子と窓の間に体を滑り込ませ、完全に窓を体で塞ぐ陣形をとった。
「お願い大人しくして。傷口が開くでしょ・・・・・・って!」
ミレイが何かに驚いて、そしてすぐさま男の子の右脇腹に手を当てた。
「血が、血がでてます!」
「そんな・・・・・・!」
だというのに、これほどまでに動けるのが理解できない。だが一刻も争う状況と分かり、尚も暴れる男の子の体を力づくで窓から引き剥がした。
「離せ!」
手が自由になり益々暴れ出す。これでは、長くこの子を持ち上げては居られない。
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