第12章 あの雨の日の約束を

22/51
前へ
/708ページ
次へ
「君、大丈夫ですか」  優しく包むような声を掛けてあげたかった。だが反面、喉が張り付き角張った声になってしまう。 蹲る男の子はシーツをきつく握りしめ、息遣いも荒い。それが、痛みに耐えてる仕草とは思えなかった。 「安心してください。ここはーー」 そこで男の子と唐突に目が合った。青髪の隙間から見える、完全に見開いた瞳。恐怖、憤怒、絶望ーー普通の子供が見せていい表情ではなかった。 「……だれ」 それが、初めて聞いた彼の声だった。子供とは思えない、深く、闇を孕んだ胸に刺さる響き。 「私はアルヴィン、といいます。あなたが川原で倒れていましたのでここに運びました。怪我は、痛みませんか」 「・・・・・・に、さん、は」 辛うじて聞き取れた言葉とそれが意味すること。アルヴィンは何も言えないまま息を飲んだ。少なくとももう一人、彼がこの状態に陥ったときに誰かがいたということだ。  だがその反応が、まずかった。  男の子はシーツを体から引き剥がし、ベッドを支えに立ち上がった。そして迷わずベッドの向こう側にある窓に目を止め、駆け出した。 「ダメです!」 言葉よりも早く体が動いた。だが男の子の方が早い。窓の鍵に手を掛け、そして開けようと窓を押した。だが、ここは引き戸だ。 「止めなさい!」 そこをなんとか後ろから体を掴みかかった。だが男の子は窓から手を離さない。 「ダメよ。ここは二階なんだから!」 ミレイがその手を引きはがそうとするが、想像上の握力があるのかビクともしない。 「どけ!」 宙に浮いた足でミレイを蹴る。だが、彼女もだてにここで働いてはいない。怯むことなく男の子と窓の間に体を滑り込ませ、完全に窓を体で塞ぐ陣形をとった。 「お願い大人しくして。傷口が開くでしょ・・・・・・って!」 ミレイが何かに驚いて、そしてすぐさま男の子の右脇腹に手を当てた。 「血が、血がでてます!」 「そんな・・・・・・!」 だというのに、これほどまでに動けるのが理解できない。だが一刻も争う状況と分かり、尚も暴れる男の子の体を力づくで窓から引き剥がした。 「離せ!」 手が自由になり益々暴れ出す。これでは、長くこの子を持ち上げては居られない。
/708ページ

最初のコメントを投稿しよう!

718人が本棚に入れています
本棚に追加