第12章 あの雨の日の約束を

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「アルヴィンさん! どうしました!」 そこにレナードが駆けつけた。 「レナードさん! この子を!」 助かった。正直、もう力のある彼でなければ抑えられない。レナードが駆け寄りなんとか二人がかりでベッドに体を押さえつける。 「ミレイさん、マイルズ先生を!」 「は、はい!」  ミレイは一瞬たじろぎながらも、力強く頷くとダっと駆け出していった。 「君、大丈夫、大丈夫だから」  なだめる様に優しく声を掛けるも、男の子は聞く耳も持たず、逃れようともがき続けている。レナードは腕と上半身を、アルヴィンが足を押さえているが、拘束されていると思わせたくなくても、力を入れていなければすぐにまた窓から身を乗り出そうとしかねないほど、彼の力は凄まじかった。 「私たちは君に安らげる場所をあげたいだけです。君はもう、大丈夫なんですよ」 「はなせ! はなせ!!」  悲しい、心の底からの叫び声。何が、彼をそんなに駆り立てているのか。一体誰が、彼をこんな目に遭わせてしまったのか。その全てが、彼の名前すらも知りえていないことが、アルヴィンにとって辛くてたまらなかった。 「君――」  ふと、何かが視界の端で動いた。一瞬のうちに騒ぎ立てる胸の鼓動。視線をそちらに向ける前に、何が起こっているのか分かっていた。  開ききった扉に、あるはずのない小さい人影。その子と、目が合う。  なぜ、よりにもよってその子だったのか。その子でなければ、よかったとでもいうのか。  硬直した身体でそこに立ち尽くしていたのは――タドルだった。  ガンッと頭に衝撃が走る。右こめかみからジンジンと痛みが染みわたり、視界がぐるりと回転した。気づいたときには、身体が床に打ち付けられていた。 「アルヴィンさん! 大丈夫ですか!」  片方の手で細い足を押さえつけるレナードがベッド越しに見下ろしてくる。  ああ、自分は男の子に蹴られたのだ。こめかみにキリキリと痛みが疼いている。もしかすれば血が出ているかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。 「部屋から離れなさい!」  アルヴィンは真っ先に扉に棒立ちになっているタドルへ声を張り上げていた。気づいていなかったレナードは何事かと、後ろに首を捻っている。 「早く、行きなさい……!」  不本意だった。彼は何もしていないというのに、そんな風に怒鳴るなど。  だからだろうか。タドルは俯き眉をゆがませると、何も言わずに小走りで廊下の先に消えていった。
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