第12章 あの雨の日の約束を

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「アルヴィンさん!」  レナードが焦燥をにじませた瞳で男の子を見下ろしている。そしてやけに、男の子が大人しくなっていた。 「出血が、ひどいです!」  慌てて立ち上がり傍に駆け寄る。 「傷口を押さえて! あと少しでマイルズ先生が来ますから!」  さっきまでの勢力が嘘かのように、男の子は目を虚ろにさせ息も絶え絶えになっている。きっとさっきの蹴りを入れた時に一気に傷口が開いたのだろう。  あっと言う間に辺りのシーツは真っ赤に染まる。その染まったシーツをどけながら、アルヴィンはただひたすらに願い続けた。  君は、なんとしてでも助ける、と。  そして、かならず君に新しい居場所をつくってあげる、と。  マイルズが駆けつけ、男の子の容態が落ち着いた頃にはとうに日は暮れてしまっていた。レナードには窓が開かないように細工をしてもらってから、ミレイと二人で他の子供たちの面倒のために戻らせ、アルヴィンは一人男の子のいる寝室に残っていた。 汗を滲ませながら荒い呼吸で必死に生きようと身体はもがいているのに、この子の心はそんな体を大事にできるような状態ではない。何が起こったのか、知りたい。でも、それが彼のためになるのだろうか。 ーーバンズリー辺りに運んであげた方がいいんじゃないか。 マイルズに言われたことが胸につっかえる。身体のことを思えば、それが一番だ。だが、また目覚めた時に違う場所に運ばれていたら、彼の心はどうなってしまうか、そんなの考えなくても分かる。 男の子の額に乗ったタオルを手に取り、顔の汗を優しく拭き取り、水に浸す。タオルを畳み、キツく絞る。タオルがギリギリと軋むまで。 本当に、憎くて仕方ない。こんな小さい子供に酷い傷を付けた連中のことが。 本当に、怖くて仕方ない。もしあの時、ふと立ち止まって川原を見下ろすことをしなかったら、この子はあのままあの硬い砂利の上で冷たくなっていたのだ。 そして、自分以外のだれかが見つけて、騒ぎとともに村の人が集まって、自分はその群衆の中の一人で離れたところからこの体を見ていたのだ。 「まだ、君は生きている・・・・・・」 無駄な幻想を振り払うごとくアルヴィンは首を小さく振る。 「君は、私が守ってあげますから」  小さな額にタオルを乗せて、寝具を整える。  この子を守る、そのためには、やらなければならいない事がまだ山ほどある。
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