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「なんか違う世界にいたみたいだ」
次の授業へ向かう中、背を丸めて不安をこぼすタドルのあり様にレイズは一つ溜息をついた。滅多にないとされた一年生全体での合同授業の内容は、学園に一人いる宗教主任による宗教学の授業だった。
入学式後の説明会にも使った講堂で、もちろん家柄によって左右に分かれて座り、延々と説教を聞かされたのだからタドルの反応は妥当なものだ。むしろ同じように背を伸ばしたりあくびをしたりしている生徒の方が多いのではないか。さすがのレイズも、金の刺繍が入った生徒達が目を輝かせてあの話を聞いていたのに気づいてからは極力そちら側を見ない様にしていたほどだ。
「これから三年間あの話を聞かされ続けるとなるとうんざりだよな」
レイズが同情して慰めるように肩を叩いてやるが、全く効果はない。その訳はタドルがはたと不安そうな顔をもたげて口を開いた時に分かった。
「なあ、でももしセイバーとかいう人が世界を救ってくれなかったら俺たちどうなるんだ」
レイズは面食らったようにタドルを見た。タドルは先刻の授業の話を完全に真に受けてしまっていたのだ。そういえばと今までタドルと暮らした日々を思い返せば、まともに二つの神の話を聞かされたのはタドルにとってはこれが初めてだったのではないか。
「タドル、お前聞いてて分からなかったのか」
「何がだよ」
「ああいう人は、事実を盛って話すのが得意だってことだよ」
だが今のタドルにはその意味が理解できないし、そんなことよりも質問への答えが欲しいのだろう。レイズにしてみればそこを論点にしたくはないが、タドルはしつこくその疑問を繰り返す。
「まあ、そもそもとして」助け船を出したのは後ろから追いついてきたガゼルだった。「そんな“もしもの話”はないってことだよな」
平然と手を頭に組んで歩くガゼルから出てきた回答はタドルにとっても、そしてレイズにとっても予想外な代物だった。ガゼルの隣からひょっこり顔をだしたフレッグも当然のごとく頷いていることから、二人は同じような教育を受けてきたのだろう。
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