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「あの先公が言った世界が滅びるような大戦がまた起きると思うか? そんな戦争を起こせる組織はもうこの世にないし、起こったとしてもこの国には最強の軍隊がある。負けるわけがないさ」
望んでいた最高の答えを手に入れ、タドルは大げさに息を吐きだした。
ガゼルの言っていることは世界の大半の人の総意であるのは間違いない。宗教主任が口にした『世界殲滅千年大戦』というのは、この国を含めた同盟国と、『殲滅神』を支持する国の間で起こった戦争だ。多くの命を奪い、一度世界の文明をリセットさせた史上最大の凄惨な大戦。
だがそれから六百年に渡りセイバー神により平穏な世界が維持されているのだから、再び戦火が繰り返されるなど確かに想像にもつかない。
「それでもいつかは決着をつける日が必要ですよね」
収束しかけた話を引き延ばしたフレッグが三人だけに聞こえるよう口元に手を添えた。わずかに与えられた安堵が遠ざかった様に、タドルがゴクリと唾を飲み込んだ。
「もう六百年も経って、これ以上セイバー神は”まやかしの神”を名乗っていられないと思いますが」
レイズは息を飲み、廊下の隅に目線を追いやって冷めあがっていく頭をごまかそうと平然を装った。だがタドルが予想以上の反応を示して見せたおかげで、その挙動はフレッグとガゼルに不思議に思われることもなかった。
「なんだよ、その“まやかし”って!」
「タドル落ち着けよ」
しつこく理由を問いただしたタドルをガゼルは面倒くさそうに押し返した。
「本当何も知らないでこの学園に来たのな」
「知らないって、これ常識なのかよ。フレッグ、どういうことだよ」
「そのままの意味ですよ」対してフレッグは丁寧にそのタドルに相手する。「救世”神”と名乗っていますが、彼は神ではありません。この世界の本当の神は、この世界を創った者、つまり殲滅神だけなんですよ」
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