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救世暦六百十五年。首都ミーユテルには一つの雲もない青空が広がっていた。穏やかな風が、冬を乗り越え金色に咲き誇るユグレアの花びらをさらさらと街中に散らしていく。
レンガ造りの建物が立ち並び、欠損個所が見当たらないほど整備の行きとどいた石畳が軽快な足音を響かせている。
その街中でひと際人が溢れかえっている場所があった。
街の中心の一部を形成するその建物は『聖セイバー教魔法学園』。その名の通り、全世界の人々が敬愛する『セイバー神』を厚く信仰し、その命によって教育が行われており、入学志願者が多い憧れの名門校の一つである。
貴族の子に至っては入学するのが当然となっているが、一般の者にもその門扉は広く開かれており、定員の半数枠が平民にも与えられている。またこの学園は小中高一貫のみならず、大学および大学院まで併設しており、卒業後は次々と名高い職業――神官、国軍、大企業、国立研究機関へ就いており、その者たちの活躍は著しい。
「俺たち、場違いのような気がしてきたけど」
皺一つない制服に学校指定の黒いロングコート。青みがかった黒髪をもつ十五歳の少年レイズ・リディームが、正門から入ってすぐに立ち尽くして放った第一声がこれだった。
「え、今更そんなこというなよ!」
その隣に立つ茶色の短髪の少年、タドル・ユースはその言葉を完全に真に受け、新品でまだ馴染んでいない革製のカバンから入学案内を引っ張りだした。
タドルとは同じ施設で暮らし、飯を食う時も寝るときも一緒だったためこういう反応にも慣れたものだった。レイズはタドルからその紙をひったくると、冷静に会場を確認し始める。
「レイズ、間違ってないよな? 夜行列車使って二日もかけてきたのに帰れって言われたら」
「落ち着け、冗談だ。会場は大講堂か。行くぞ」
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