第3章 世界の殲滅と救世と

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「ハッハッハ! エリザなら俺が講義室に入った時点で分かるだろ。何をそんなに渋い顔をしている」 「また東で紛争だ」 「今時そんな記事にまで目をつけるのは、エリザくらいじゃないか?」 「何言ってる。生徒の安全を考えれば当然だろ」  一指し指を新聞の二面に突っ込んで閉じた状態でグラントに突き付ける。面倒くさそうに一瞬顔を歪めたのは見逃さなかったが、催促するように押し付けてやる。 「さして特徴もない、いつもどおりか。東の国境では紛争が常に起こっている、というのが普通の感覚になってるからな」  渋々受け取った新聞を開きグラントが記事に目を止めた。エリザは足を組み替えると再びコーヒーをすする。 「一つ、紛争を潰したところで次が出てくる」エリザはカップのブラックコーヒーに視線を落とす。「東に散らばった小国はどうなってるのやら」  世界殲滅千年大戦が勃発するより前の時代、今の『セイバー神国』の前身である『セナ王国』の東隣には『リディア神国』があった。 このリディア神国が世界崩壊の全ての元凶であり、セナ王国が、己の国と世界を犠牲にしてでも戦いを挑んだ国だ。  その千年大戦が終わり、リディア神国はバラバラに崩壊していくつもの小国が生まれた。六百年もの間に統合と分裂を何度も繰り返してきたため、それぞれが共闘しているのか対立しているのか把握するのは困難だ。 「だが悪の根源リディア神国の核だった首都だけは直轄領になっているだろ。どれだったかなあ。五大貴族のうちの――」 「『レースノワエ公爵家』だ。だが核を押さえても、結局残党勢力を抑えきれてはいないじゃないか」  グラントは実に短絡的に事を済まそうとするのだから、こちらの調子が狂う。
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