7.隠れた記憶

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  「お前のを寄こせなんて言わねぇよ。分かった。俺がガキだったってことなんだな?」 「優作さん、算数嫌いだった?」 「ああ、嫌いだ。世の中計算で生きてるヤツは嫌いなんだ」  黙って食べていた親父っさんがとうとう吹き出した。 「おい、優作。俺ぁ、お前のそういうとこが気に入ってんだ。ただな、計算と算数は違うってことは理解しとかなきゃな」 「親父っさん! どう違うんですか、同じでしょ!」 「おい」  今度はまじめな顔になった親父っさんに優作は黙った。 「いいんだよ、お前はお前なりに頑張ってるってのは俺が一番知ってる。だがな、先に怒るな。相手が言おうとしていることをまず理解しようとするんだ。そんなだからケンカになるんだよ。人に噛みつく前に何でも調べろ」 「……はい……」  頭が悪くてもここのみんなは知っている。親父っさんが真面目に喋っている時は絶対に逆らっちゃならない。 「じゃ、テルと仲直りしろ。ジェロームの言う通りだ、作ってくれた人に感謝するんだ」  簡単に謝りたくない優作はテルを見たけれど言葉が出て来ない。 「優作!」 「照れてるんだよね、優作さん。だって俺だって恥ずかしくて謝れなかったりすること、あるもん」 「ジェローム……お前っていいヤツだなぁ……俺の分、お前にやる!」   
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