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(お姉さん、確かとっつきにくい人だったわね。池沢さんも苦労するわ)
それは三途川の心の中にひっそり芽生えているものだった。何となくそんなことを思いながら三途は眠りについた。
一方、池沢もぼんやりとこんなことを考えていた。
(好きになるとかならないとか。そんなもの俺には遠い世界だ。そう思うだろ? 三途)
ここに無自覚な男がいる。いつの間にか帰宅すると寂しさを覚えるようになり、心の中であれこれ考える。そうすると三途川の声が聞こえる。
『男なんだからシャキッとしなさい!』
『なに言ってんの? やりもしないで逃げてどうすんの!』
『まったく、これだから男は』
それは自分に向けて言った言葉じゃない。職場で聞くフレーズだったりする。けれど何かを思い悩むと頭の中にいろんな三途川の言葉が響く。
それがなぜなのかを池沢は考えたことがない。時々自分が三途川の後ろ姿を立ち止まって振り返ることにも気づいていない。
今のところ、二人の車間距離は縮まりそうもなかった。
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