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三途川家の最後の朝食となった。蓮だけではなく、イチも病人食になった。それも野菜だけだ。
「もう便秘になるのは許さねぇ!」
親父っさんの一言で当分それが続くらしい。
「本当にお世話になりました。改めてまたご挨拶に伺います」
「挨拶はいいよ。また来な、2人で」
「はい! 遊びに来ます!」
「車に野菜積んどいたから。料理頑張るんだよ」
「ありがとう、女将さん」
夫婦はすっかりジェロームが気に入って、昨夜は「このまま家で引き取りたいくらいだ」などと言い出し、蓮を焦らせた。
みんなに見送られ、ジェイの運転でいったんはマンションに向かう。出勤だからスーツに着替えなければならない。三途川は駐車場まで蓮を見送った。
「じゃ、課長。会社で」
「おう、後でな」
いつの間にか周りの景色は見慣れたものとなり、階段のすぐ近くにジェイは車を停めた。ずっと運転の様子を見ていた蓮はジェイを褒めた。
「たいしたもんだ! すっかり元に戻ったじゃないか!」
「うん。忘れてたなんて嘘みたいだ」
時計をチラッと見ると7時50分。急いで支度をすれば会社には間に合う。
「ちょうどいい時間だな」
「途中道路もあんまり混んでなかったね」
「さ、急ぐぞ」
やっと我が家。そんな感慨に耽る間もなく、手早く身支度を整え、車に取って返す。
「本当に行くの? 今週は休んだらいいのに」
「もうたくさんだよ、仕事がしたい」
「蓮は仕事人間だよね。そういうのって過労死しやすいんだよ」
「恐ろしいこと言うなよ」
ジェイは真面目な顔だ。
「俺どんどんいろんなこと思い出してるから、きっともっと蓮の役に立てるよ。運転だって思い出したんだから」
「お前こそ無理するな。運転も緊張するんだからな」
蓮はそっちが気になっている。互いに相手が心配で仕方がない。
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