9.迫りくる真実

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   努めて軽い調子で言う。 「いいんじゃないか、それは放っておいて。うまく溶け込んでるってことだろうし。明らかにおかしいってこと……例えば運転出来るようになったとか、事件のこととか。田中の異動のことを思い出しただろう? ああいうのを書き出せばいいんだよ。大事なのはそこだから」 「……そうだね。時々、考えちゃうんだ。俺、どれだけのことを忘れてるんだろうって」 「焦るな、焦るな。そういう不安も俺に言うんだ。お前が今やっちゃいけないことは、蛇が自分のしっぽを呑み込むような真似だ」 「しっぽを呑んじゃうの?」 「そうだよ。呑み込むのに限界があるし、その中から出られなくなる。だろ?」  様子を思い浮かべたのか、くすくす笑い出した。 「それって大変だね! え、じゃ自分を消化してっちゃうってこと?」 「そうなるな。取り敢えず生産性は無いな」 「そうだね。……えぇ!? そしたら排泄、自分の中にしちゃうってこと?」 「碌なもんしか残ってないだろうな。それを自分でまた食ってる。いいとこ無しだろ? だから一人で抱え込むな」 「……ありがとう、気をつける」 「ああ、そうしろ」  ジェイの愛すべきところだ。いつも素直で人の言葉を受け入れる。裏返して考えるとか揚げ足を取るとか。そう言ったことにジェイは無縁だ。だから自分もジェイの言葉を素直に受け取れるし、自然にジェイに誠実であろうとする。 (計算する必要が無いんだ、お前に対しては) 誰でもそういう部分を持っているのに、ジェイにはそれが無い。   
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