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病院は空いていた。受付の女性がジェイをにこやかに迎えてくれた。
「ビデオを見る?」
「いえ、今日はいいです」
驚いた顔だ。以前のジェイと様子がまるで違う。
「何かあったら言ってくださいね」
「ありがとうございます」
受付の女性は蓮の顔を見て、(良かったですね)という顔をした。
オルゴールが静かに流れている。
「こういうの、いいね」
「こういうの?」
「やることなくて、考えなくてよくて、優しい曲が流れている」
「そうだなぁ。俺もホッとしてくるよ」
「蓮、体大丈夫?」
「もうどこも痛まない。気持ち悪くもない。どんどん食べて後は太るだけだ」
「お腹出るまで?」
「そういう中年になるのもいいな」
ジェイが座り直した。蓮を睨む。
「蓮は中年なんかじゃないよ」
「じきにそうなるさ。中年オヤジってヤツ」
「蓮、色気ない」
「お前が言うか?」
笑っている内に名前を呼ばれた。立ち上がりながらジェイが腕を掴んで来た。
「蓮。俺、頑張る。負けたくない」
蓮はその手をしっかりと握った。
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