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写真から引き剥がすように目を上げて友中を見た。
ここに『今』がある。そう思った。自分が持っているこの写真は、『過去』だ。終わったことだ。そう思いたい。それを口にした。
「これ……今じゃない……終わったこと……そうだよね? もう終わってる。もう何もされない」
「その通りよ。もう何もされない。この人はあなたに近づくことも触ることも出来ない。あなたは自由になったの。自分で自分をあの時間に縛りつけてるだけ」
もう一度、写真を見た。
「どっちが怖い? どっちが嫌い?」
「こっち」
それは以前の写真だ。その笑っている顔が嫌いだ。今にも声が聞こえてきそうだ。
「嫌いだ、この人。嘘ばかり言う顔だよ。俺を……壊した、この顔で」
一気に駆け抜けていく、いろんな映像が流れてくる、電車の中、オフィスの中、ホテルの中、街の中、そして…………
その映像に溺れて窒息しそうだ。息が詰まる、汗が垂れる……
「ジェイ! しっかりしろ、先生!」
すぐに友中が立った。写真を取り上げ、冷たい水の入ったコップを渡す。
「飲みなさい、ジェローム」
のろのろと手が上がって、ごくりと一口飲んだ。間を空けてコップがすぐに空になった。
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