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繰り返していくうちにしっかりと声が聞こえた。
「ジェイ、水、欲しいか?」
頷いた……ような気がする。また口に冷たいものが当てられた。
――コクン
はぁっ
体がそっと下ろされた。冷たいものが顔を、首を拭いていく。目を開いた。今度は光が見える、その下で動く人、逆光で良く分からない。
「こわいひと? こわくないひと?」
出たのは自分の声なのか。
「こわくないひとだよ、ジェイ」
「かお、みたい」
「みえないか?」
「まぶしい」
起こされた。背中に柔らかいものが積まれ寄りかかることが出来た。
「ほら、らくになったか? おれがみえるか?」
見えてくる……そっとその頬を触った。両手を伸ばしてその顔を触った。温かい。自分の頬にも手が触れてきた。さっきの手と違う、溺れる中で触ってきた手と。
焦点が合ってきて顔が分かった。
「れん」
「そうだよ。やっと分かったか?」
「れん」
「ああ、蓮だ。帰って来たか?」
「おれ、どこかにいってた?」
「迷子になってたんだ。でもちゃんと見つけた」
笑顔が浮かぶ。嬉しい声だ。嬉しい顔で、嬉しい言葉だ。
「だきしめて」
「いいよ。ほら」
しっかりと抱きしめられる。背中に手を回してガッチリした体に掴まった。
「かえってきた」
「帰ってこれたな」
「うん、かえれた」
「お帰り」
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