12.ゴールデンウィーク

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  「三途川さーん、ちょっと待ってぇ」  甲高い女の子が三途川を追いかけて来る。 「ね、冗談じゃないわよ、なんであの子ここに連れてきたの? ここは初心者向けじゃないのよ?」 「そう言わないで。柳沢さんも娘が一緒に行きたいって言ってくれたんだって嬉しそうだったよ。三途さん、初心者の指導上手いでしょ? ああやって懐いてるんだし」  柳沢和樹。17歳の娘、加奈と集合場所に現れた時から三途川はブチ切れていた。そして今はそんなことをほざいている登山仲間の戸田にキレている。 「じゃ、ここから抜けて初心者コースに親子で行ったら良かったのよ!」 「そうだけどさ、この連休は天気にも恵まれてるし俺たちもいるんだから」 「まずね、登山家が天気を甘く見るなんて論外だわ。それに私たちがいるからなに? 一つのトラブルは全員のトラブルを引き起こすのが山ってもんじゃないの」 「尤もだけどさ、三途さんの言うこと。でもやっとあの親子うまく行きそうだから辛抱してやって」  柳沢は離婚している。自分の手元に置いた加奈とはそれ以来上手く行っていなかった。みんなは三途川の反対を押し切って同行を許したのだ。 「私は面倒見ないからね。あんたたちの責任でやってちょうだい」  二日後、突然空が暗くなり一行は足を速めた。小雨が降りだした。 「ここらは地盤が悪い。滑る前に移動しよう!」  リーダーの栗本が大声で言った時にそれは起きた。  
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