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男性は厳しい表情だ。
「夜はマイナス1度まで下がります。おまけに雨。多分ケガもしていることでしょう。そうなると時間との勝負なんです。それだけは覚悟しておいてください」
蓮もジェイも言葉が無かった。3人の男性が出ていき、残った戸田はただ頭を畳につけて震えていた。
「そのお嬢さんは元気なのかい?」
「……はい、はい……」
「そうか……良かった。ありさのやったことは無駄じゃなかった。それならいい。無駄に命を落としたんじゃ……」
「死んでなんかいません」
「池沢さん?」
親父さんは池沢をじっと見た。
「死ぬわけないです、あいつが。人一倍根性座ってます。俺はいつも助けられてる。俺は生きてるって信じてますよ。帰ってきます」
「池沢さん。あんた、もしやありさと付き合ってんのかい?」
「いいえ」
そこで池沢は手を突いた。
「親父っさん。お願いがあります。あいつが帰ってきたら俺にください。一生大事にします。たとえどんな姿で帰ってこようがそんなこと関係ありません。おれはあいつに惚れてます」
予想外の言葉に女将さんも顔を上げた。
「ありさは……承知してるんですか?」
「いいえ。顔を見たらすぐにプロポーズします。四の五の言わせる気はありません。だからください、俺に」
親父っさんはくつくつと笑い始めた。
「あんた、どうなるか分かんねぇってのに……分かった。後はありさの問題だ。池沢さん。あんたに任せるよ」
「ありがとうございます!」
「おい、ありさが承知してからだ。礼はまだ早い」
2人はしっかりと目を合わせた。イチは何も言わなかった、口を出す気も無かった。
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