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「ドジ……ったなぁ……ザック、どこ行ったんだろ……痛っ! 左手、だめか……足、止血しなきゃ……参った……指の感覚が……」
三途川は喋り続けた。眠ったら最後だと分かっている。とっくに体中がびしょ濡れだ。熱も出ているのが分かる、雨が気持ちいい。口からは白い息がひっきりなしに出ているというのに。
痛くても絶えずあちこち体を動かしていた。低体温症が怖い。
「嫁に行く……前に死んでたま……るか……ははっ……相手……がいないか……」
時々、うつらうつらしてくる。頭に声が響いた。
『無事に帰って来いよ』
『もちろんよ』
そのたびに目が開く。
「帰んなく……っちゃ……愚痴、聞いて……あげ……ないと……」
『無事に帰って来いよ』
「帰、るわよ……そんなに……し……つこく……いわなくたって……」
『無事に帰って来いよ』
「……うる……さいな……いい加減にし……てよ、ちーふ……」
左手は折れていた。右足には枝が刺さり、左足は脱臼。ザックはどこかに飛んで行ってしまっている。
状況は絶望的だった……
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