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あれには手を焼いた。部長も困り果てた顔をしていた。
確かにあの納期は無茶だったのだ。だが仕事なんてそんなものだ。取引先を大事にするのは当然のこと。若い池沢にはそれが納得行かなかった。
「後で部長に聞かされました。『言われたらやる。課長はそういう人だ。みんなを帰しても平気な顔をして寝ずにやる。そんな無茶のストッパーになるのが上のもんの役目だろう』そう言ったと。で、部長が動いてくれましたよ、納期をずらすように。池沢は減給になりましたけどね」
「……よくクビにならなかったねぇ」
そう言うと蓮の顔をじっと見た。
「あんたがさせなかったんだね」
「上司の責任でもありますからね、部下のやったことは。でもあいつの行動力に惹かれました。次の年池沢の昇進を願い出ました。部長は何も言わなかったですよ」
しばらく考えている風だったが、ふと顔を上げた。
「池沢さんは幾つだい?」
「29です、俺の一つ下」
「ありさは33だぜ!?」
「知ってますよ、それくらい。あいつが気にすると思いますか?」
「……ありさに振り回されなきゃいいが」
「さあ。それはどうですかね」
時間を見た。3時近い。
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