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池沢には三途川を否定されないことが有難かった。
「けれどこれは地元の方には言わないでください。現実は遭難救助に当てられる支援費は地元の人たちの税金で賄われているんです。他県の人のために自分たちの税金を使われる。その心情もどうか分かってやってください」
「はい……よく分かりました。何を聞いても言われても反論しません。俺は自分が何の役にも立たないことが悔しいです……」
「なら、待っていてあげてください。それがあなたのやるべきことだと思いますよ」
「はい。待ちます、顔見たら怒鳴ってやりたいですから。心配かけるなと」
三途川は何度か目を開けた。もう雨は弱くなり風も落ち着いてきた。それでも今の状況には何の変りも無い。
(目、あけたよ、ちーふ……)
また目が閉じる。深い眠りに落ちる前にデカい声が頭に響く。
『三途!!!!!!』
(……こんどはなによ……)
三途川はずっと池沢と話をしていた。怒鳴られるたびに(うるさいな)と思っていた。いつの間にかもう声は出ていない。そんな力さえ無い。
けれど歌が聞こえてくる、朝礼での声が聞こえてくる、誰かを怒る怒鳴り声が聞こえてくる。
(まったく……怒鳴らずに喋れないの? 耳について離れないじゃないの)
また声が聞こえる。
(……いい加減眠いんだけど……ちょっと黙っててよ)
それでも池沢の声は三途川の意識を揺さぶり続けていた。
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