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病院に着いた時にはすでに手術室に入った後だった。すぐに他のスタッフが対応してくれた。
「状況をご説明いたします」
みんな固唾を飲んで聞き入っている。
「まず外傷から。左手は前腕骨、つまり手首から肘までの間ですね。これが骨折しています。右足は転落した時に木にぶつかったんでしょう、枝が突き抜けて刺さっていました。気温が低いのが幸いして出血はある程度で止まっています。左足は脱臼です」
みんなの血の気が引いた。他に何があるのだろう。
「後は転落による幾つかの傷がありますが、それは時間が経てば自然治癒するでしょう。裂傷はさっきの枝によるもの以外はほぼありません。ただ顔に2ヶ所傷があるので、それはちょっと時間がかかります」
「外傷はと仰いましたが、他に何か……」
「低体温症は到着した時に体温33℃でしたので、重症とは言えませんが今徐々に体温を上げています。他は今具体的に言えるものはありません。転落による何らかの影響が出る可能性は充分ありますので経過を観察していくしかないでしょう」
気が緩んだのかふらっとした女将さんを親父っさんが支えた。最悪のことを考えていた。
「じゃ、生死に別条はないと安心していいんでしょうか?」
池沢の質問がまた緊張を呼んだ。
「現在のところは。言えるのはそこまでです。手術自体はそんなに時間がかからず終わると思いますよ」
「ありがとうございました」
医師が立ち去るまでみんな深々と頭を下げた。
「良かった……」
親父っさんがやっと普通の親らしい言葉を呟き、イチもカジもぼろぼろと涙をこぼした。
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