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みんなが出ていくのを見届けて三途川は池沢の手を握り返した。
「私、簡単な女じゃないです」
「知ってる、面倒臭いヤツだっていうのは」
「年上です」
「それも知ってる」
「オフィスで夫婦ですか?」
「それがどうした、見せつけてやればいいんだ」
「開き直りますね」
「当然だ。課長補佐だ、みんなに文句は言わせない」
「出世しないと。私、贅沢が好きです」
「任せとけ」
「……偉そう……」
「夫だからな。俺は亭主関白だ、多分」
「それはどうかしら」
大きな手がガーゼに覆われていない頬を撫でた。
「返事は? ありさ」
「……するわ。イエスよ。ずっと……池沢さんの声が響いてた。歌まで聞こえてた。声、デカいって文句言ったような気がする。私……」
池沢の手に自分の手を重ねた。
「独りじゃなかったわ、寒かったけど」
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