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「どうした?」
遅れてきた蓮が様子が変なジェイに声をかける。
「何も」
短い返事。固く結んだ口。鋭い目つき。
(見たことがある……)
蓮はハッとした。これは自分との愛を確かめる前のジェイだ。そこに氷のようなジェイがいた。
何かがあったのは確かなのだ。けれどそこにいるジェイは、蓮にすら問いかけを許さない顔をしていた。不意に不安に包まれた。
「蓮、ごめん。俺、考えたいことが出来た。ビデオは今度にする。今日は自分のとこで寝るね」
そのままビデオ屋を出ていく後ろ姿に、かける言葉を失っていた。
「相田さん。俺、あんたと戦うから」
その夜は寝ることも無くノートにひたすら思い出す感情を書き続けた。順番などどうでもいい。湧き上がる負の感情をノートにぶつける。洗いざらいの今の思いをぶつける。書いても書いても、止まることなく湧き出る言葉の中に、今まで忘れていたものがちらほら見え始める。
(そうだ、あんた俺をトイレに連れ込んだんだ……俺の首にキスマークをつけた、穢れたものを)
(初めて会った時にあんたに肩を掴まれた、思い出すとゾッとする)
(俺を殴った、蹴った、犯す気だった)
(ウィスキーを……ムカムカする! なんで俺はあの舌を噛み千切らなかったんだよっ!!!!)
相田の嫌がらせは、尽きていたはずのジェイの怜悧な心を蘇らせていた。
(俺がだらしないからこんなことになったんだ。負けて堪るか!)
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