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蓮は何度かジェイのドアの前まで行った。中の電気はつきっ放しで、もしかしたらそのまま眠ったのかもしれないとも思った。けれど起きているような気がする。それは直感だ。
唐突に思い出した。
(昨日は相田の公判のはずじゃなかったのか? でも西崎さんは何も言わなかった……)
時計を見ると11時半。とても西崎に電話できる時間じゃない。
(明日聞こう)
取り敢えず、今日はジェイをそっとしておこうと思う。いつもならこんな時に自分にしがみついて眠るジェイが今日はいなかった。胸騒ぎがして仕方なかった。
ノックがあって飛び起きた。これはジェイだ。すぐに玄関に出るとにっこりした顔がそこにあった。
「昨日はごめんね。これからビデオ借りに行ってくる。一緒に行く?」
「もう朝か…… 待てるか? 支度する」
ジェイが心配で明け方まで眠れずにいた。
ジェイはビデオ屋まで他愛のない話をずっと喋っている。まるで昨日のことなど無かったような顔。相槌を打ちながら様子を見ていた。
(こんなに喋ったか?)
ただ違和感しか感じない。これも自分の知っているジェイじゃない。
(ジェイは二人いるのか?)
そう思えてくる。
借りるものはジェイに任せた。どうやら今日はサスペンスの日じゃなさそうだ。いくつかの無難なものを借りて外に出た。
「朝ご飯の買い物、してく?」
「そうだな……ジェイ、この前の喫茶店に行ってみないか? もしかしたらモーニングやってるかもしれない」
ぱっとジェイの顔に笑顔が咲いた。
(笑っているんだから大丈夫ってことか?)
蓮の不安は尽きない。
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