13.準備

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   11日、池沢は久しぶりの出勤だ。 (休んだ分を取り返さないと)  三途と過ごしたこの数日は、驚くほど穏やかな日々だった。  土曜はやたらハイテンションなオフィスのメンバーが何人も見舞いに来たが、それでも「三途さんが疲れちゃいけないから」なんて殊勝なことを言って、ほどほどの時間で帰って行った。  日曜は誰も来ずに静かに過ごした。親父っさんと女将さん、あとは三途川家のみんな。けれど二人の時間を優先してくれた。 「隆生ちゃん」 「その呼び方はやめてくれ!」 「じゃ、隆ちゃん」 「なら、ありちゃんって呼ぶぞ」  本当にくだらない痴話喧嘩。 (こんなに満ち足りた1週間は人生で初めてかもしれない)  そんなことを考えながら、8時にはオフィスに入った。 ――パーン! パーン!  クラッカーがいくつも鳴る。驚いて自動ドアの真ん中で池沢の足が止まった。 「な、なにやってるんだ?」  なぜか全員が揃っている。 「課長まで……どうしたんですか?」  呆然とした様子に、千枝が池沢を引っ張り込んだ。真ん中に連れて行かれて野瀬や柏木らに背中を容赦なく叩かれる。 「おめでとう、チーフ!」 「いや、俺はチーフじゃ……」 「池沢、諦めろ。今日のお前はみんなのオモチャだ」  そんな蓮の言葉にまだ何が何だか分からない。   
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