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11日、池沢は久しぶりの出勤だ。
(休んだ分を取り返さないと)
三途と過ごしたこの数日は、驚くほど穏やかな日々だった。
土曜はやたらハイテンションなオフィスのメンバーが何人も見舞いに来たが、それでも「三途さんが疲れちゃいけないから」なんて殊勝なことを言って、ほどほどの時間で帰って行った。
日曜は誰も来ずに静かに過ごした。親父っさんと女将さん、あとは三途川家のみんな。けれど二人の時間を優先してくれた。
「隆生ちゃん」
「その呼び方はやめてくれ!」
「じゃ、隆ちゃん」
「なら、ありちゃんって呼ぶぞ」
本当にくだらない痴話喧嘩。
(こんなに満ち足りた1週間は人生で初めてかもしれない)
そんなことを考えながら、8時にはオフィスに入った。
――パーン! パーン!
クラッカーがいくつも鳴る。驚いて自動ドアの真ん中で池沢の足が止まった。
「な、なにやってるんだ?」
なぜか全員が揃っている。
「課長まで……どうしたんですか?」
呆然とした様子に、千枝が池沢を引っ張り込んだ。真ん中に連れて行かれて野瀬や柏木らに背中を容赦なく叩かれる。
「おめでとう、チーフ!」
「いや、俺はチーフじゃ……」
「池沢、諦めろ。今日のお前はみんなのオモチャだ」
そんな蓮の言葉にまだ何が何だか分からない。
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