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「は? なんだ? お前」
ぶつかってきたのは野村礼二だ。内心は(しまった!)と焦っている。
「肩がぶつかっただけだろ! あんた、ヤクザ?」
「答えて。相田さんと知り合いなんでしょ?」
「相田って誰だよ」
柏木ももう片方の腕を掴んだ。
「警察、行こうか」
「え?」
秋野兄弟と違って21歳の礼二はまだ機転が利かない。思わずドギマギしてしまう。ジェイに掴まれた腕が痛い。だから柏木の手を振り切ろうと必死になった。
「俺が何したって言うんだよ! ぶつかっただけだろ!」
その言葉を繰り返す。
「この頃肩がぶつかることが多いんだよね。ずっとあんた?」
「俺じゃない!」
その答え方がまずかった。無関係なら『知るか!』とでも答えるだろう。
「じゃ、誰?」
ジェイの声から感情が消える。
(聞いた話と違う! こいつ、怯えてるって言ってたじゃないか!)
何も答えない若い男に柏木は相田と関係があるということを確信した。
「ジェイ、警察だ。その方が早い」
「ふざけんな! 放せよ! 放せってば!!」
人が立ち止まり始める。尚のこと礼二は焦る。
(ヤバい、逃げないと!)
思い切りジェイの足を蹴ると柏木の腕を振り切って駆け出した。柏木が追いかける。後ろを振り返りながら走る礼二は、昼間の人通りの多い中を駆け抜けていく。
年齢が違う、速いのは礼二だ。柏木は途中から息が切れ始める。デパートに逃げ込んだ礼二を柏木は見失った。
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