1.我慢

3/24
前へ
/330ページ
次へ
  『出発までに花と遊びに行くから』  それは叶わなかった、哲平が忙しすぎて。電話で何度も『ごめんな』と言われた。泣きそうだったけれど頑張って明るい声で答えた。 『心配要らないよ。花さんもいるし』 『花に怒られたよ、ジェイが楽しみにしてるのにって』 『でも哲平さん、必ず帰ってくるから』 『おう! 二人の弟が危なっかしいからな、さっさと帰るから待ってろ』 『うん。強くなって待ってるよ』 「空港にも行けなかったし……」 「そうだな。けど千枝と二人にしてやらなきゃ。分かるだろ?」 「……分かってる。帰ってきたらすぐ結婚するんだって! 男の子たくさん作るんだって言ってたよ」 「想像したくないな、哲平ジュニアがたくさん騒いでるところ」 「楽しそうだよ」  家に入って疲れた顔の蓮のスーツを脱がせていく。背中に思わず抱きついた。 「なんだ、したいのか?」 「ばか……やんないよ、蓮が元気になるまで」  そのまま蓮の背中にくっついていた。 「悪いな、心配かけて」 「俺……ずっと蓮に心配かけてきたよ」 「お前が可愛いから」  背中で赤くなった。もう可愛いなんて言われる時は過ぎたと思っていた。母からしか言われたことの無い言葉。   
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!

512人が本棚に入れています
本棚に追加