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ジェイはKSビルの脇の路地を折れた。人が少ないどころじゃない、いない。少し入り込んで止まった。続けて後ろの足跡が止まった。
振り返ると男がいる。
「あんた、ずっと俺の跡をつけてたよね。なんか用? 相田さんのお使い?」
「ずい分舐めた真似するじゃねぇか。分かっててここに誘い込んだって言うのか?」
「まあね。この前の人と違う。ビデオ屋で聞いた声とも違う。何人で俺を追いかけ回してるの?」
「そんなことはどうだっていい。助けてくれるヤツは誰もいないな。王子さまはお忍びで散歩か?」
「それがどうかした?」
否定しないその言葉に芳樹はカッとなった。
「相田さんから頼まれてんだよ、お前をボコボコにしとけってな!」
兄がいたらこんなことにはならなかっただろう。そもそもこういうことが目的じゃない。あくまでもジワジワとジェイの精神を追い詰めるはずだった。
自分で誘い込んだくらいだ、ジェイは冷静だった。花ほどには行かなくても花と真理恵がずっと教えてくれたことが身に付き始めていた。殴りかかってきた相手の腕が近づくのを待った。
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